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吼える月
第33章 出芽
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「蠍に頼める奴がふたり……いや、ひとりと一匹になった。それはこの先やりやすい。……それなのに!」
腕組みをしたサクは、そちらを見た。
まるで話を建設的にしようとしない、ひとりと一匹を。
「だからあ、蠍ちゃんのお友達はユエなの! ユエの頼み事なら、蠍ちゃんは聴いてくれるの!」
『なにを言っておる! 我は朱雀ぞ! 神獣の頼みこそ、蠍は聴くのだ』
「ラクダちゃんはラクダでしょう? ユエの方が偉いんだから!」
『我は朱雀であるぞ!』
「元、でしょう? だったら、ユエの方が偉いもん」
『我がお前のような小童に劣るというのか!』
「ねぇ、ユエは最初からわかっていたけど! ラクダちゃんもユウナちゃんが首に巻いているイタチちゃんが、玄武だとわかってたの?」
『……も、勿論だ』
ラクダは歯切れ悪く答えた。
「サクちゃんやシバちゃんが、神獣の力持つとわかってたってこと?」
『も、勿論……』
そこにテオンが参戦する。
「へぇ……、わかっていたんだ? そんな話だっけ、僕、初耳」
『うっ……』
傍観者でいたシバも加わる。
「そうだな、言われてみれば、なんでこのラクダの朱雀は……」
「シバ、ラックーだ!」
サクが言うと、シバは言葉を濁すようにして続けた。
「このラックー……ダは」
「シバ、ラクダじゃなくてラックーよ?」
ユウナからも言われてシバは顔を歪めさせた。何度か口を開きかけたが、彼の気性からすると、ラックーとは恥ずかしくて簡単には言えないらしい。
一同の視線がシバに集まる。鷹はおろかラクダすら、サクが名付けた名前が正式な名前だというかのようにシバをまっすぐ見つめていると、シバは屈辱にわずかに震え、全員を見渡して言う。
「なんでユエはラクダと呼んでいるのに、オレは駄目なんだ!」
テオンがひとつ咳払いをして言う。
「シバ……。あの子より年上なんだから、張り合うなんて大人げないよ?」
誰が大人でも子供でもない、シバも同じ類いなのだとテオンに諭され、シバは複雑そうな顔をして黙り込んでしまった。