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吼える月
第33章 出芽
サクはふと思い出したようにして、ユエに尋ねる。
「そういやチビ、あの男女……お前の片割れどうした?」
「あの子は、ユエが頼んだお仕事実施中」
幼女は髪を揺らして、きゃはははと明るい声で笑う。
「その仕事って、これ関係か?」
サクが見せたのは、服の中に取り付けていた木札。
黒陵に来た近衛兵が、これを持っていたサクとユウナに頭を下げて出航させたほどの威力がある。それを見たユエは、瞳を揺らして否定した。
「ううん。あの子はユエのお手伝い」
「普通、お前が手伝わないか?」
「手伝わないよ」
「即答かよ。俺はお前の個人的な事情に興味がねぇからどうでもいいや。よし、じゃあもうそろそろこれからのことを……」
ユエの出現に際する広がった会話の収束をしようと、サクがぱんぱんと大きな手を叩いて、皆の意識を向けた時、テオンが慌てたように言った。
「待ってよ、お兄さん! その木札のこと、聞いてないじゃないか」
「今チビが、否定したじゃねぇか」
「仕事じゃなくて、その木札を持っていた意味だよ!」
テオンはサクにぶら下がっている木札を指さし、ユエに興奮したように言った。
「ねぇ、そんなに小さいのに"月(ユエ)"なの!?」
隠密集団"月(ユエ)"――。
それは皇主の命を受けて動く謎の集団であり、彼らに人を裁く裁断権が与えられていると言われている。
つまり、彼らの意思は皇主の意思に並ぶもので、彼らがしたことに対しては、どんな悪行ですら正当化される。
彼らはどんな力を秘めているのか、どんな姿をして何人いるか詳細はわからない。だが木札が確実に存在し、近衛兵が木札に書かれた模様を確認してその謎の集団のものだと認識したあたり、隠密集団は口承だけのものではなく、現実に存在するのだ。
「獰猛な鳥や蠍を従えられるのは、月(ユエ)だから!?」
ユエの懐に顔を見せている、"浄化の笛"。それによってサクやユウナだけではなく、蒼陵の民であるテオンやシバも救われてきた。
この幼女はただの幼女ではない。
その理由は、月(ユエ)だからなのだろうか?