この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第33章 出芽
神獣の真の姿はサクにもわからない。現に玄武は、イタチにも人型にもなれるが、伝承のように亀に似た姿が真実なのかと尋ねたこともない。
だがイタチは玄武なのだ。契約をしたサクには、理屈抜きに感じる。
だとしたら、ラクダが朱雀でも話はおかしくないのだが、よく考えてみれば、イタチは特殊なのだ。サクと先に契約した何者かと融合したから、サクの想起で形を得たのだ。
ラクダもイタチと同種だとするのなら、ラクダに変えた者が存在するだけではなく、なにかと融合したから可能になった可能性も出てくる。
しかもそれだけではなく、朱雀の力一切を抜き取る事も出来る強者である。それはなにかと融合したせいかもしれず、未知数だ。
玄武のように、どんな姿であろうとも、力を持つものこそが神獣という存在となるのなら、もしも朱雀の力がどこかに移譲されていたとしたら、その存在こそが、緋陵の新たな神獣となるのではないか。
許可を取らねばならない神獣とは、どんなものを言うのか。
それでも――。
イタチたる玄武に疑いを持たず、親しみを込めてくれたラクダであるのなら、たとえ朱雀の力を持たずに神獣の影も見えないとしても。
イタチを助けるための仲間として認める限りは、目に見えているものこそが真実。
「神獣朱雀よ、この玄武の武神将、請い願い奉る」
ラクダ相手にサクが片膝をつき、左手拳を反対側の掌にあてる……武官特有の礼を見せたのを、一同は黙って見ていた。
大きなラクダは、サクの頼みに頷いた。
『あいわかった。我は玄武と青龍の力を認めよう』
自らの力すらも感じ取れない自称朱雀は、ラクダ顔を真面目なものに変えたが、大きな鼻の穴から鼻水を垂らしたラクダの顔は、間抜け以外の何者でもない。
それでもその顔はどこか満足気であった。