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吼える月
第33章 出芽
「気にしない気にしない。ね、イタ公ちゃん」
イタチをなで続けるユウナは、内心焦っていた。
今までなんともなかったのだ。だがラクダの元に行くときに、偶然見上げて目に入ったのは、サクの唇だった。
夜、上着の布一枚隔てて触れあった、サクの唇。
布があったのに感じた、あの熱さと柔らかさを急に思い出したのと同時に、上着をどけて直接触れあいたいと思った、あの切なくなるような思いまで蘇った。
布を挟んで触れあったあの時の、ユウナを見つめるサクの眼差し。
官能的な男の表情に煽られ、睦み合いのようなものをしたくなった。女として男のサクに欲情した自分を思い出し、恥ずかしくなって思わず逃げたのだ。
性懲りもなく、また。
いつもは底抜けに明るいのに、迫るときは妖艶で、ユウナを翻弄して熱と男を刻みつけていくサク。
意識してしまうとドキドキして、なぜか怖くなる。
早い鼓動が、警鐘のように思えて。
サクという存在が危険なもののように思えてしまう。
自分の中を暴く、脅かすような存在に思えてしまう。
サクが近くにいないから悲しんだのに、サクが近くにいると逃げたくなってしまう。だけどサクは、自分から逃げないで欲しい。
わかっている。
理屈が滅茶苦茶なこと、行動も滅茶苦茶なこと。
わかっているのは、頭の中がサクだらけで、切ないものがふくれあがっているのに、その輪郭がつかめないということ。
否、つかみたくないと思っていること。
ユウナは、サクのじとりとした目線を感じながら、イタチのしっぽをぎゅうぎゅうと引っ張った。反応することはなかったが。
ユウナにはわかっている。無意識にしろ、こうやって遠くに離れてみたとしても、場所は限度のある甲羅の上。
それもきっとこれからサクに怒られ、近くどころか至近距離で座ることになるだろう。お仕置きと称して。
また後ろから抱きしめられるのだろうか。
嫌な気分や羞恥の気分より、どこかで嬉しがっている矛盾した感情が心にある。そちらに意識を向ければ、まるでサクに抱きしめられたいからこうして遠くに座ってみたりしているような気分になり、ユウナは依然イタチのしっぽを引っ張りながら、俯いた顔を赤らめた。