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吼える月
第33章 出芽
◇◇◇
「見た、見た見た見た――っ!?」
落下した蠍は無言のまま水平移動していたが、やがて行き止まり前で動きをとめると同時に、混乱中だったテオンの爆ぜた声が、砂がさらさらと上から落ちる地下に響き渡った。
「落ちる時に見えたあの黒いのなに、あの白いのなに、紫のなに――っ!?」
「おい、落ち着けテオン」
シバの制止は叶うことなく、テオンは両手でがっと頭を抱えて、蠍の甲羅の上で踊るような奇妙な動きでうろうろしたかと思うと、突如吠えた。
シバは悟る。今テオンの脳裏に再生しているのだろう、蠍の落下の際に見えたものが、テオンの許容範囲を超えてしまっていることを。
「まさか砂の中には蠍がうじゃうじゃ居て、共食いしたり産卵したりしてないよね、あの黒いのと紫のと白いの、そんなねばねばどろどろ粘液まみれの気持ち悪系じゃないよね!? ねぇ、シバ!?」
「きゃはははは。テオンちゃん、目もいいし頭もいいね~。今ね蠍ちゃんに訊いたら、テオンちゃんの言う通り、お食事と子供を産んでいるお部屋がある上の層は、はねばねばどろどろ粘液まみれの気持ち悪系なんだって!!」
「!!!? うええええええ!!」
「ユエ、黙ってろ! そしてテオン、止まれ!」
混乱の針が振り切ってしまったテオンは、巨大蠍の甲羅の上から降りてまだ調査もしていない地に足を着けようとしたが、その小さな身体と女子供程度の身体能力しかないために、滑り落ちる。
「うわああああ」
見かねたのは熊鷹で、足でひょいとテオンの背の服を掴むと、傍に放るようにして地に下ろした。
ふぁさりと砂の音がするが、この地は沈まないようだ。
それをいいことに、いまだ暴走中のテオンが四つん這いになってしゃかしゃか動き始めたため、既に降り立っていたシバがテオン捕獲に乗り出す。