この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第33章 出芽
たった数日、行動を共にしただけの他国の姫だ。
その姫の髪の色が、シバと同じ輝く色であるのは生まれつきではないだろうことは、ユウナの瞳が黒いことからわかるし、たとえあの見事な銀髪が途中からでも、この倭陵の中では苦しい思いをしただろうことも容易に想像出来る。
それゆえの親近感なのか。同じような"光輝く者"と呼ばれる忌み嫌われるものに分類されるだろうユウナが、ここまでシバの心に住み着いているのは。
シバが髪の色を隠さないのは、苦痛の過去を忘れないためだ。髪の色如きで、自分の存在は揺らぐことはないし、負けたくない……その自己主張だ。
それをわかってくれたのは、ギルだけだった。
シバは蒼陵の武神将ジウの息子で生まれながら、父親の愛を知らずに母親と仲間と、大陸から隠れて暮らさねばならない身の上だった。
なぜこの髪の色だと悪いのか。
黒髪と黒い瞳の人間と、一体なにが違うのか。
なにひとつ教えられずに育ったシバから、父親が、母と仲間の命を奪い、復讐を生きる理由にしていた。
だが、あの"遮煌"の生き残りであるシバを強くさせたギルすら、すべてジウの意思により、シバが"生かされて"いたことを知った。
自分がどんなに強くなった気でいても、ジウの意思ひとつで自分は殺されていた……そんな弱小さを思い知らされ、同時に自分は【海吾】の子供達のように帰る場所がないことを悟った。
今まで居た場所は、ジウが黙認していたからこそ存続できていた、仮初(かりそめ)のものであったにすぎないのだと。
なにひとつ、シバが守ることで形に出来たものはなかったのだ。
サクのように、誰一人として信頼の絆を築けてはいなかった。
突然父親みじたことをしでかしたジウにも、身分を詐称していたギルにも、すぐに帰る場所に帰る子供達とも。
まるで広大な海に漂っているかのような気分だった。目に見えるものはつかめない。まるで海の……水のようなものだと。
誰もいない場所に、漂泊していく自分。
自分に意味があるのだろうか。
生きていることに意味があるのだろうか。
だが流離(さすらい)の自分に巻き付いて引き寄せたのは、同国の者ではなく他国の者達だった。