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吼える月
第33章 出芽
「ねぇ、シバ。ここをどう思う?」
テオンに促されたシバが改めて周囲を見渡せば、ここは、蠍が入ってきた側を抜かしたところすべてぐるりと砂の壁に遮られた、袋状の行き止まりな場所である。
「ここは……自然に出来たものではないな。洞窟みたいな形状だが、【海吾】の根城のとはまた違う。落ちてきたところは砂が詰まっていたが、落ちるということは空洞があったということだ。そして水平移動していた部分には、こうして砂が高く積もっていないことから、やはりここも水平に空洞が出来ていたということだ」
「僕も同感だ。【海吾】の根城は、岩石のように見えるだけの、実際は海に蓄積されたものが硬くなって出来たものだ。水位の変動と共に顔を出したものを、僕達は利用して拠点としていた。
こうした硬い壁のようなものを、海は作り出すことは出来るけれど、緋陵のこの砂漠は違う。砂はどこまでも砂だ。砂を固めるには水分を含めばいいかもしれない。だけどラックーが今まで潜伏していた浅い部分には、水分があったかもしれないけど、ここまでの深層には水分がある気配はしない。それなのにこうやって移動できる空間が出来ている」
テオンはユエに尋ねた。
「砂の下は、ここ以外にも移動できるの?」
「ええとね~、そうみたいだよ~」
「つまり蠍が埋もれた砂を行き来しているのは、最初に穴になって僕が落ちそうになった部分から、あの気持ち悪い場所があったらへんの、ここからだいぶ上の外界に比較的近い浅い場所で、それより下はこうした通路を移動しているということになる。
そして深い部分には、こうして……砂漠で出来たものとはまるで思えないものが出来上がっているということ」
「ああ、仮に年数が経てば砂が固まるとしても、緋陵が砂漠になったのは比較的最近だ。だとしたらこれは……」
「うん、砂漠化する前に元々出来ていたものじゃないだろうか。緋陵に」
シバは腕組をして、改めてゆっくりと見渡した。
「それにさ、ここに文字があるところなんてないよね、砂ばかりだしさ。ねぇ、ユエ! 蠍が行けない場所って、ここなの?」