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吼える月
第34章 連携
◇◇◇
ラクダの声量ある歌声が、三度あたりに響き渡った。
鼻水を垂らしながらの真抜けた顔をしている割に、声は非常にいい。
ただラクダは、サクとユウナが通じるような人間の言葉を直接心に響かせているために、耳からは「ひひぃぃぃん」だの「ばへぇぇぇぇ」だの、馬が酒でも飲んで酔っ払ったかのような音が聞こえるが、それを心が意味ある歌詞に変換して美声にさせるから、不思議である。
サクとユウナは、ラクダが何度も歌い出したおかしな歌詞の歌に、首を傾げた。どう聞いても、童歌にしては大人もその意味が取りづらい。
ラクダが満足げに歌を終えると、ユウナは純粋に笑顔で、サクはユウナの付き合いで喝采の拍手を贈れば、ラクダは前足をがんがん地に打ち付け、興奮気味に喜んだ。
一段落すると、サクが言う。
「童歌にしては、随分と高尚な内容の歌詞だな。ラックーを称えている賛歌のようにも思えるが、中途半端でなんか微妙……」
『中途半端で微妙とはなんたるぞ! 童歌は我ら神獣が作り口承させるのが常。そういうお前達の国では、玄武はどう教えていたのだ? 童歌はないのか?』
ラクダがサクとユウナを見ると、ユウナは顔を綻ばせた。
「ええ、あるわ! 舞姫だったお母様は歌も上手で、よくあたしに歌ってくれたのよ。あたし、ラックーちゃんより歌下手だけど……。"てんてんてまり~、てまりの玄武は跳~ねるぞ~"」
ユウナの高音域の歌声は綺麗だったが、その歌詞内容を忘れていたサクはため息を零して、ユウナの首に巻き付くイタチを見た。
「イタ公、イルヒに弄られて随分と嘆いていたけれど、なんだ自分でそんな歌作っていたのか。イタ公流の自虐的な冗談なのか? それで笑いを取ることが親しみだとでも思ったのか? ……哀れイタ公」
イタチは反応しないままだ。もしも意識があれば、赤い目で牙を剥きだして、シャーッ!!と怒るだろうに、それがないのがサクには寂しくも思う。