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吼える月
第7章 帰還
サラはくらくらする。
リュカが妻となる姫の父を殺し、妻となるはずの姫を蹂躙し。
さらにはその正体が、今夜まで……倭陵の兵士達が凶々しい予言を成就させないために奔走して狩っていた、"光輝く者"。
たとえ他の仲間に唆されていたとしても、恩義を向けていた黒陵を滅ぼす手助けをしていたことには変わらない。
これから一体なにをするつもりかはわからないけれど、倭陵の北……神獣玄武を祀る祠官が住まう玄武殿は堕ちたのだ。
予言の通りに、倭陵の崩壊は始まっていく――。
ハンはそれを知っているのだろうか。
玄武の力の加護を得ていたハンは、今無事にいるのだろうか。
「状況的に苦しいがよ、ただ……星見の予言は今夜の限定。近衛兵にどう伝わっているかは知らねぇけど、俺が連れたのがただの"光輝く者"であり、それが姫様だとわかられてなければ、まだ姫様は髪色さえなんとかすれば道はある」
「だけど……あんたは……」
「ああ。俺のおたずねものの有効期間は、倭陵崩壊の速度に比例するだろう。倭陵が荒れれば荒れるほど、人々の怒りの矛先は、予言に従うように忌まわしい存在を黒陵に持ち込んだ俺に向けられる可能性がある」
サクはサラを見た。
「だからよ……お袋。俺と縁切ってくれねぇか」
それは真摯な表情だった。
「は?」
「俺のためにこの家の名誉まで傷つけることになる。俺、それだけはしたくねぇんだ。この家は親父の……最強の武神将の屋敷だ。親父は倭陵一の男だ、それをこんな俺如きに苦しい立場にさせたくねぇ」
「サク……」
「お袋、縁切ってくれ。で、姫様を頼みたい」
サクはサラに頭を下げた。