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吼える月
第7章 帰還
「……サク。姫様のことは任せて。だけどあんたとの縁切りは無理。あんたはどんな馬鹿息子だろうと、血が繋がっているの。簡単に縁など切れやしないし、どんなことがあろうと切るつもりもない。それはハンも同じよ」
「お袋っ!」
「私達は息子を見捨てない。それに。あんた如きで揺らぐような男じゃないわ、ハンは」
サラは毅然とした態度で、サクの訴えを却下した。
「それより、私はあんたに言いたいことがあるの」
サラは、ずいと息子の前に歩み寄る。
「な、なに……」
その迫力に、若干怯えたような眼差しでサクが仰け反ると、サラは息子を両手に抱いたのだった。
「な、なんだよ!?」
「よく無事だったわね!」
サラは、堰を切ったように派手に泣き出した。
「……お袋……」
「そんな辛い環境の中、よくあんたは姫様を護って生きてここまで来れた。よく無事だった……。それだけで母さん……」
「やめろよ、ガキでもあるまいし」
サクが照れ隠しに身を捩れば、サラは口を尖らせる。
「私にとっては、あんたはいつまでも子供よ。観念なさい」
「そういうことは、親父にしてくれよ。俺はいらねぇって」
「駄目。母の愛を存分に受け取りなさい」
「ああ、もう……」
サクは真っ赤な顔で遠くを見る。
そして呟いた。
「今さらだけど……俺の言うこと、信じてくれるのか?」
「当然でしょう、親なんだもの」
「それでも……あまりに信じられねぇことばかりだろ。俺が姫様と駆け落ちしてくる方が、遙かに真実味がある」
「そうそう、馬鹿息子の考えること思えば、そっちの方がよほど真実っぽいわ」
「……疑うなよ、可愛い息子だろう?」
「息子だから疑うんじゃない」
「お袋」
「なに」
「……ありがとうな」
サクは照れ臭そうに笑った。
「いいってことよ。あれ、サク……その手首どうしたの?」
突如サラが視線を落としたのは、サクの……かつてリュカから貰った黒水晶の腕輪の影――。
手首から上向きに伸びる、黒い蔦のような模様だった。
「これ……汚れじゃないわね。なにこれ……不気味……」
サラは知らない。
「あと6日か……」
「え?」
暗い翳りを落とすサクが、まだ母親に言っていないことがあるのを。