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吼える月
第34章 連携
「だから多分、ラックーが歌った童歌の歌詞を漢字で表現すると……。
『朱雀の羽は裏表。我が国は鏡となり、鏡は我が国となる。我が力は水に覆われ、水は地となす。即ち我が力地には及ばず、我が力も地となすが、もとより地は気となす。我の業火によりて木々の葉は夜に隠れ、眠りもまた闇に消ゆ。田は死、野は無となり、汝らのすは我が手に落ちる。我が尾は目となり、我の頭は尾に向くが、終焉は開始となる』
"汝らのす"は"巣"ってところかしら。業火で焼き尽くされるものを考えてみたら、こんなところだと思う」
「逆さ読みして、重なるの部分は"かがみ"か。ラックー、かがみになにか覚えは?」
『鏡と言ったら、朱雀の鏡しか思い浮かばぬが……』
「なんだそれは」
『我は怒りの神獣である。我の鏡には、"憤怒"が映る。我はそれが映った者の嘆願を聞き入れようと、したように思う。いや、しておった』
「それはどこにあるんだ?」
『それは、朱雀殿の祭壇の間に。……もしも嘆願の儀がヨンガだとしたら、はてはて不思議なことよ』
「なんだ?」
『我の嘆願の儀は、嘆願者の命を代償とする。つまり、嘆願した時点でヨンガは死ぬのだ。棺にこんな文字を打てるはずがない』
「だとしたら別ものなのか? 別人が嘆願の儀を行い、緋陵を砂漠化まで望んだとか……」
『嘆願の儀は祠官の協力と、その国の神獣の力がなければならぬ。それでいけば、ヨンガがイーツェー家を滅ぼした後、ヨンガは鏡のある朱雀殿に戻り、誰の制止も受けずに鏡の前で、祠官と嘆願を行ったとしか思えぬ。
そして祠官は、嘆願の後犯罪者ヨンガのために石棺に嘆願の文句を刻み、さらに祠官にも我にもはない朱雀の力でここに符陣を施し、その効力はいまだ生き続けていることになる』
「……もしもヨンガの後任の武神将が、符陣やこの棺の文字を刻んだとしたら?」
『不可能ではあらぬが、重罪人のために嘆願を生かし続ける理由が我にはわからぬ。もしや嘆願のものとは別のものが刻まれているかもしれぬに、やはりこの文字を解いてみぬことには、すべては推論にしかすぎぬ』
サクは目を細めた。