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吼える月
第34章 連携
【海吾】においてシバはテオンより上の立場にいたが、今テオンが指揮をとることになっても、シバは異議を唱える気は毛頭ない。
海の外は多くの人間がいて、シバもまたその多くの中のひとつであることは、シバも明確に理解出来ていた。
そう、緋陵の砂漠の中の、一握にもならぬただの一粒――。
どんなにいきがって生きてみても、自分の誇りも強さも一粒にしかすぎない。生まれて初めて砂漠を見た時、途方もなく縹渺と広がる砂の世界に圧倒されたシバは、足元が歪むような目眩を感じた。
海も広大だが、波は力強く海の中に存在している。せめて小波くらいにでもと強さを求めたシバだったが、別の国においては、己の存在はさらにさらさらとこぼれ落ちるような、儚くて小さな存在であると悟った。
だからこそ一層に、広大な砂漠の中でどこにある一粒が自分なのか見失わぬよう、自分の存在意義を強めねばと思ったのであった。
一粒なりの自己存在意義をシバは求めているわけではあるが、テオンは別の砂に埋もれるのではなく、こうしてテオンしか出来ない役割を自覚して、無自覚にて自然と一粒の個性を強めているところは、シバはすごいと思っていた。
テオンは前と変わった。子供達の世話役でありとにかく笑い続けていた頃の彼とは違い、喜怒哀楽や自己主張がはっきりとしている。自分の存在意義を見つけて、祠官になりたいという目標を持って進んでいる。
同国の仲間として、似た境遇の持ち主として、ひとりの人間として。同情で庇護するわけではない今の関係は、シバとギルとの関係ともまた違い、やりにくいところもあるにはあるけれど、それでも前とは違ったその関係が面白くも感じる。
蒼陵国の小さな祠官か――。
シバが口元で微笑んだ時、ふいにテオンが口を開いた。
「ユエが歌った童歌なんだけれど、全体に意味が通らないのは、こういう言葉の並びにしなければならなかったからだと思うんだ。
だとしたら、この歌の文字の並びは、"そういうふうにしろ"という意味の表れだと思うんだよね」
テオンは、ユエが歌った童歌を聞いて地に書いた文字を指さした。