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吼える月
第35章 希求
「ヨンガが、嘆願の儀とは別にかけた血の呪いというものが理由では?」
ユウナの質問に、サクは頷きながら言った。
「ラックーは、この血の呪いというものを知っているか?」
それはなにか、特殊性があるのか。
『ふむ……。自分と近しい血を持つものを生け贄にして祈りを捧げると、より強い力となってその者に返るが、それがその者を縛る呪いとなり、永劫の苦しみを味わねばならぬ。言わば、ジョウガの箱のようなもの』
「ああ、開けた者は願いが叶えられる代償に全てを失い、未来永劫苦しみ続ける……という奴か」
『そうだ。あれによく似たものであるが、我への嘆願を併せて使ったというのなら、ヨンガは憤怒していなければならぬ』
「ヨンガが、なにかに怒っていたと?」
『それが"悪しき光"であるのかどうかはわからぬが、その憤怒が大きくなければ、我は嘆願を叶えぬ。今となっては記憶も定かではないが、我が願いを叶えたことによって我が力を失ったというのなら、ヨンガの怒りは相当であったはずだ』
サクとユウナは押し黙った。
『自らと、家族の命を犠牲にしてまで、ヨンガがなにに怒っていたのか。そして我の力を奪って、我が国と我が民をどうしたのか。そこがわからぬ。嘆願内容はまだあるはずだ』
「テオン達は、なにかわかったのかしら」
ユウナが上を見つめる。
「なにかわかれば、ワシが飛んで来るでしょうが……」
『この中に、入らねばなるまい』
ラクダは固い声を出した。
『我の力を奪う嘆願の儀が効力を持つのは、我の鏡があるからだろう。我の鏡を壊さねば、我自らが叶えたヨンガの嘆願により、我は力を永劫に失う』
「でもどうやって……」
『方法があるとしたら……』
ラクダは言った。
『玄武と、青龍の力を、棺を守る我の力と同等に流し込む。三竦みの状態で均衡を保てば、そちらに力を流し込んだ棺の入り口が、開くやもしれぬ』
「だけど俺の力は……」
『我の力で張り巡らされたこの空間を力尽くで破らねば、もう手立てはあらぬ』
他の神獣の力を受け付けないあの入り口から、力で制してシバ達と共に中に入れと、ラクダは言う。