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吼える月
第35章 希求
「ねぇ、ラックーちゃん。でもこの嘆願を破るのだとしたら、血の呪いが発動しちゃうんじゃ……」
ユウナはイタチを撫でながら、僅かに青ざめた顔で聞く。
『……然り。血の呪いがどんな形で襲ってくるやもしれぬが、それを乗り越えねばならぬ。血の呪いをかけるほどだ、ヨンガは嘆願の儀を邪魔する輩の出現を想定し、排除方法も考えていたはずだ。命をかけることになる。それでもこれが嘆願と血の呪いで守られているとわかれば、力尽くで破るしかないのだ』
サクは固い顔をして言う。
「元よりそれは承知の上。イタ公を救うために既に覚悟はしていた。ただ、力に目覚めたシバに負担がかかると思えば」
『ああ、力を等しく出さねば、力の弱い者に嘆願による防御の力が動くだろう』
「……」
『ヨンガの嘆願の儀を超えるのだ。……ふたりで、限界を突破せよ。我はどうなってもよい。だが、どうしても玄武を救ってくれ。我の同胞を』
ラクダの言葉に、サクの顔が引き締まる。
「俺は、ラックーを見殺しにはしねぇからな」
『………』
「イタ公と喋ってやれよ。青龍もイタ公と喜んで喋ってたんだから。イタ公、仲間思いだから喜ぶからさ。可愛い顔で」
『………』
「盟約を知りつつ青龍不在の蒼陵国を、その民を守ろうとした、俺と姫様の神獣は、慈愛深いんだ。その冒険譚を、イタ公の口から聞いてやってくれよ」
『……。わかったぞ』
サクは笑い、そして首傾げた。
「さて、シバにどう連絡するのか、だが」
その時だった。
ぴぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
ラクダがびくっとする。
「おーワシ!! いいところに来た!!」
巨大な鷹が、死に物狂いで飛んできた。
後ろからは蠍。
サクは笑って飛びはね、ワシの背中に飛び乗るようにしてさらに上に飛び、赤い刀を両手で上から突き刺した。
甲羅の継ぎ目を狙ったそれは、先の戦いからサクが見つけた蠍の弱点のひとつでもある。
「え?」
蠍は……砂のようにさらさらと崩れて、消えていった。
潜るのではなく、体液を迸るのでもなく。
ただ消えていく。
夢幻の存在だったように。
サクが地面にくるりと身体を回転させて着地した。
「もしかすると……」
「サク?」
サクは固い顔をしたまま、ユウナに続きを言わなかった。