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吼える月
第35章 希求
◇◇◇
敵は無言だ。
ただ闇雲に、テオンとシバを殺したいというように、その窪んだ眼窩から放たれる殺意は、捕獲意志の域をはるかに超えていた。
がちゃがちゃと忙しい鋼の音に、ざっざっという砂を重く踏みしめる複数の不規則な音が混ざり、それが言葉がなくとも、邪なる不協和音を奏で、殺気を強めている。
外観は脆弱なただの骨。
背丈の違いや、骨の太さの違いこそ個性はあるが、強い衝撃を当てれば崩れ、気をつけるべきは鋼の武装のみ。
それなのに、倒しても倒してもその数を減じることができなく。
……先の見えない持久戦が、武闘派ではないテオンの精神を害していく。
誰の屍体だったのか、どれほどの屍体がここにあったのか、なぜ屍体になっているのか、なにひとつわからぬ骨の脅威に、テオンは混乱の境地にいた。
「骨、骨! こんなに骨、僕いらないっ!! 僕が欲しいのは肉でもなく、魚だぁぁぁ! 骨は食べても身体は大きくならないんだぁぁぁっ!!」
大きな身体になろうと努力はしていたのだろう、魚の国での恩恵を被ろうとしていたことを暴露するテオンが、彼の骨格より大きい白骨の兵士達に向かって走る。
「テオン、落ち着け!」
テオンに向かう頭蓋骨を、鮮やかな切り口で斬り落としているのは、シバ。
広がった刃をした大きな青龍刀を片手でくるくると回しながら、ひらりひらりと白骨の攻撃を回避する様は、がっしりとした体格を持つシバの身体からは考えられない軽やかさ。
そんなシバの肩に俯せに乗っているのは、着物を着た幼い少女だ。
シバの手が彼女の背に巻き付き、振り落とされる危険性を回避している。
「きゃははははは~」
この年端もいかぬ少女は、骨が動き出す光景よりも、混乱したテオンがその骨の群れの中に入り、シバが尻拭いをしている光景が愉快で笑っていた。
「きゃはははは~、シバちゃんまたお骨が起き上がったよ~」
シバは、倒しても倒しても再生する骨の異常さに、目を細めた。
「なにかに操られているのか!?」