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吼える月
第35章 希求
そうでなければ考えられなかった。
白骨が動き出すなど。
倒してもそれでも自分達を殺しに来ることの説明がつかない。
暗号を解読したから。
それでこの石の中に入るのを妨げているつもりにしては、シバ達は建物に入ろうという素振りを見せていなかった。
「やはり……あの蠍か!」
あの蠍が罠を仕掛けた。または、合図、だった。
解読出来た旨を書いた文を、テオンが巨大な熊鷹の足にくくりつけようとした時のことを思い出す。
そこに既に括り付けられていたのは、ジウからの文。
ギルと青龍の危険。
それは強いては蒼陵の危険。
だから戻れと。
蒼陵を守った罰を受けている黒陵の神獣を見捨てて、自国とその神獣を守れと。義理を捨てよと。
……だからシバは、それをジウに背を向けた理由にしたのだった。
正直ギルの危険は気になるが、それでもギルは……昔のようにシバだけが頼りの大人であった環境にはいない。
なにより、最強まではいかなくとも倭陵に名を轟かす蒼陵の武神将が傍についている。
今さら。
ジウの息子だから、蒼陵の危険は守るのが当然だと、そう思われていいように使われるのがシバはどうしても嫌だった。
ここでは、シバを必要不可欠として皆が考えて動くから、居心地良いこともある。
だからこそシバは、受けた恩を果たす方を選んだのだ。
彼がテオンにそう告げた時だ。
――シバ、蠍がいない! 蠍が……ふへぇぇぇ!? 蠍、もういらない、蠍来すぎ、多すぎ!
彼らを乗せた巨大な蠍がいつの間にか消えてしまった不可解さを考えるより早く、彼らが入って来た出入り口から蠍が次から次へと雪崩れるように入って来たと思うと、彼らを無視して石扉に張り付くように、団子状になった。
その時、石扉から赤光が放たれ……夥しい数の蠍が消えた。
――テオン。朱雀の力が発動している。
表に出てきたのは、赤光の根源である朱雀の力。
それは、シバがサクに感じたのと似た力。
――テオン。サクに文を書き直せ。遅いかもしれないが、それでも蠍に気をつけろと。敵が現われると!
――わ、わかった。