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吼える月
第35章 希求
「く……っ、オレは大丈夫だからそっちを頼む!」
急所は避けたが、傷は深い。
目がシバの身体に、この環境は危険だと感じさせないのならば、視覚に頼らず、身体が問答無用に危険に陥ればいい。
……きっと、サクでも同じことをやるはずだから。
ドクドクと流れる血潮。
その血で染めた手を前に突きだした。
オレの心の中にいる青龍よ。
シバは心の中で青龍にかしづく。
あんたの力が必要なんだ。
どうか、皆を守るために、オレに力を。
今、ここを突破出来るだけの力を。
テオン達を犠牲にしてその力を得たい。
それでもその力は顕現せず。
「オレの血に眠る、神獣青龍! オレの身体に宿れ!」
シバは、天井を見上げながら言葉を迸らせる。
「オレ達のために玄武は他国で力を貸してくれた。だったら青龍、玄武のために力を貸してくれ!!」
「シバ……」
「シバちゃん……」
「玄武を助けないと、皆が泣くんだ。サクやユウナだけではない。玄武に助けられた蒼陵の民も、すべてが! オレが無能のために泣かせたくない。悲しませたくないっ!!」
シバの悲痛な叫びを聞きながら、ユエが口にしたのは……。
「"青龍は云う。我を称え崇め、その包容力で我の大切にするものを守ろうとすれば"」
それは神獣縁起の一節。
女神ジョウガが青龍に問うた嘆願方法の部分だった。
ここでユエから借りた『神獣縁起』を目に通しているテオンが、ユエの言葉に続ける。
「"即ちそれ、人を超越し我の器となる方法なりて、儀式も誓願も必要とせぬ"」
『青龍の嘆願か。あやつ、無意識にでもここで青龍に嘆願をする気か』