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吼える月
第35章 希求
 


「姫様は?」


 サクを、従者として見ていると言えと?

 素晴らしい従者だと、褒めろと?


 ……従者だと、ユウナの口から言葉が出てこなかった。

 
「姫様?」


 当たり前のことを、ユウナは口に出来なかった。

 従者でなかったら、サクはなに?


「姫様」


 気づくと、ユウナの目の高さに屈んだサクの目。

 こんなに至近距離から見つめられて、ユウナは照れる。


「なにを考えてます?」

 頬に片手を添えられ、唇が重なりそうな距離で、サクが掠れた声で聞いた。艶めいた男の瞳を、揺らしながら。

「……俺に、惚れた?」

 瞬間、ユウナの心臓がけたたましい音を奏でて、ユウナはサクの手の甲をぎゅうぎゅうに抓った。


「いてててて!」

「こんな状況なのに! イタ公ちゃん助けないといけないのに!」


 ぎゅうぎゅうぎゅう。

「姫様、俺が悪かったです。だからそのぎゅうぎゅうは……」


 イタチを助けないといけない状況なのだという言葉を向けたのは、ユウナ自身にだった。

 サクの言葉に図星のような気がしてしまった。

 この男と唇を重ねたいと思った。


 ぎゅうぎゅうぎゅう。


「姫様――っ」


 ……記憶を消しても尚、サクの"男"に惹かれている事実を知らずして、ユウナは真っ赤な顔で唇を尖らせながら、サクにあたる。


「俺、やりのけたんですよ。ご褒美にそんなのはいりませんって」

 ぎゅうぎゅうぎゅう。

「じゃあなにが欲しいのよ」

「……わかってるくせに」

「え?」


 サクが指をたてながら、頬から唇をなぞる。

 自分を見つめるその目に、不意打ちを食らってサクの手からユウナの手が離れた。
 
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