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吼える月
第35章 希求
笑みが消えたサクの顔は、切なそうな苦悶したような表情を浮かべ、サクの指が唇の間を割るようにして左右に往復する。
その指が少し震えていることを、ユウナは感じていた。
少しだけ空いた唇の隙間に、少し傾けたサクの顔が近づき、ぴたりと止まった。
少しユウナが顔を上げれば、サクの唇に触れられる。
その距離がやけに緊張して身体が熱くなって……ユウナは上擦った浅い息を繰り返して、顔を下に向けてしまった。
サクはこつんと額同士をぶつけた。
「察してください。俺の願い」
口づけは願掛けなのだとサクは言っていた。
ユウナの心が欲しいと、彼は言っていた。
だから口づけたいと。
だから口づけて欲しいと。
思わずその思いを拒んでしまったユウナの前で、サクは傷ついたような弱々しい笑みを浮かべて、ユウナに背を向けて石扉を見た。
「さぁて、行きましょうか」
ユウナは後ろからサクに抱きついた。
「姫様?」
「……っ」
ただの幼なじみでただの従者のはずなのに、サクが格好良いところを見せれば、それだけで昔からユウナは舞い上がって、サクは自分のものだとひとに自慢したくなった。
だけど今はちょっと違う。
胸が苦しくなって。
女としてサクに抱きつきたくて。
サクから告白されたことは覚えているが、その時の感情までが抜けたように感じるユウナにとって、無意識下で荒れ狂う胸の内に名前をつけられなかった。
「離れないで、サク」
そう言うしか出来ない自分。
独占欲?
所有欲?
支配欲?
わからないが、サクが欲しくてたまらない。サク以外は欲しくない……そう思う気持ちは一体なんだというのだろう。
「姫様」
サクの腹に回されたユウナの手をぽんぽんとあやすように軽く叩くと、その大きな手のひらでユウナの手を包み込む。
「俺の姫様」
……胸が苦しくて。
サクなのに。
――姫様、置いていかないで下さい~。
あのサクなのに。