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吼える月
第35章 希求
 

「俺は離れませんよ」

「サク……」

「なんですか?」

「サク」

「ははっ、なんですか甘えっ子みてぇに」

「……この旅が落ち着いたら」

「ん?」

「サクが欲しいもの、あげる」


 特別に愛おしいと思うから。

 初めての口づけは、サクに……。


「姫様……それって……」

「……それがご褒美でもいい?」

 ユウナがサクの背中に頬をすり寄せた。

「……っ、ひめ、さ……」



『ゲホンゲホンゲホン!』

 ぴぇぇぇぇぇぇ!!



「「わっ」」


 唐突に響いた声音に、慌ててふたりは離れた。


「姫様、そんなに遠くに離れなくても……」

「ま、まあワシちゃん、ラ、ラックーちゃん。ごきげんよう」

 動揺丸出しで、ユウナは優雅に挨拶をする。

『……まあよい、小童も頑張ったからここはなにも言うまい。我が来なかったら生殖行為をしていたのかとか、甘々な空気に胸悪くなりそうだとか……』

「黙れよっ、いろいろ言ってるじゃねぇかお前、せ、生殖……へんなことを言うなよ、俺はもっと純粋な……」

 サクが怒ると、ラクダとワシは顔を見合わせて愉快そうに笑った。


「まあ、ラックーちゃんとワシちゃんは仲良しになったのね」


 ユウナがほのぼのと喜ぶ。


『ふむ。案外気があうようだ。……では、お主は向こうを守護せよ。我はこちら側にいるゆえに。なにかあればおぬしが動くのだぞ?』


 ぴぇぇぇぇぇっ!!

 熊鷹は、テオン達の方に飛んでいく。


『では参ろうか。この中の……』

「鏡を壊しに」

「そうね。そうじゃないとなにも始まらない」


 テオンとシバとも中で合流出来るだろう。


 サクとユウナは、一本の髪の毛を揺らすラクダと共に、崩れた扉から中に潜った。



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