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吼える月
第35章 希求
 

「ああ、勘。野性の勘を働かせろ。お前は朱雀でもラクダでも、動物なんだから、人間の俺よりも優れているはずだろ」

『ふ、ふむ……』

 理不尽なことを言われたような気がするが、それでもラクダは同意して、鼻息荒く身構える。


「では行くぞ」

 こうした窮地こそ、サクの精神は研ぎ澄まされる。

 視覚が遮られても、聴覚がある。嗅覚がある。触覚がある。
 五感のすべてを遮られたら、第六感が働くようにとサクの身体は鍛えられているため、なにがあってもサクは動じない。

 意識を集中すれば、光の原因となっていると思われるものは、空間に停滞しておらず、常に猛速度で動いている気配を、サクは感じ取る。


 直線的な動きだ。

 まるで、ココココ……の音で絶えずなにかに反射し続けながら、光の網を編んでいるような……そんな感覚。

 そしてそれは不定期に、気配を感じて避けるサクの耳元を掠め、風のように駆け抜ける。

 なぜ具体的に感じ取れるのか、サクは原因がわかっていた。

 サクは痣のある手を隠すようにして掴むと、心で言う。

 頼むから、まだ出てくるな。
 俺に協力してくれ――。

 己の内から、なにかが蠢いている気配がしていた。

 しかし今それに心を砕く暇はない。

 彼もまた、未知なるものを抑えた玄武の力を使うものとして、かつて契約した"彼の者"をなだめる。

 ナゼダメカ

 サクは身体の中でなにかが不満げに文句を言った気がした。

 ワレハナンジトケイヤク――。

 サクは意志の力でそれをねじ曲げる。

 これは己の身体だと、好きにさせないと、その優位性を示すために。
 ……それは時間伸ばしにしか過ぎないことはわかってはいたが、それでもまだ微かにでもサクの中に残る玄武の力によって、今は抑えられるのだろうとサクは思っていた。

 サクは、武神将の誓いを通して、すべてをユウナに捧げた。
 ユウナを守るための武神将が、志半ばで朽ちることだけはしたくない。

 あと数日。
 おそらくはイタチの許された刻限ぐらいに、自分の身体は"彼の者"に占領されるだろう。もしも玄武の力をすべて失ってしまった場合には。

 早く決着をつけないといけない。
 イタチのためにも、自分のためにも。
 
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