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吼える月
第35章 希求
そんな緊張感漂う状況にありながらも、野生的な"彼の者"によっていつも以上に鋭敏になったのだろう五感は、ここを突破する力にはなってくれたようで、動いているなにかを見定めるために、サクは意識を集中しながら、ユウナとラクダに言う。
「姫様、ラックー、ここで動かずに居て下さい」
「どうしたの?」
『なんだ?』
「罠を解除します」
サクは目を瞑ったまま、赤い柄を振り刃を固定させると、その瞬間を待って腕を振る。
カラン、と音が響くと同時に、あたりは少しずつ光を失ったようにサクは感じた。
目を開けると――。
「もう目を開けて大丈夫。思った以上に早く、ケリが着いたようだ」
サクは足元に転がったそれを手に取ると、ユウナとラクダに言った。
「え?」
サクに目を覆った布を取られたユウナは、あたりを見て驚いた声を上げた。
「なにここ……鏡ばかり!」
一行の四面を取り囲むように、艶やかな白銀色の鏡があちこちに聳え立っていたのだ。
『なんと……。我はここまで醜い姿になっていたのか』
ラクダは己の全貌を鏡に映して嘆くが、サクの目が鋭く光る。
「ヨンガの嘆願に鏡とあったから、それに関係する鏡の間かと思ったんですがね、光を放っていたのは凄まじい早さで光るこれのせいだったようです」
サクの手のひらには、小石のような光り輝くものがあった。
「これは……輝硬石ですね、恐らくは……朱雀の」
それは、炎のように赤く発光する塊であり、軽く動かすだけで陽光のような眩しさをもたらした。
「さて復習だ、ラックー。輝硬石を作るには、神獣の身体が必要となる。そうだったよな?」
『ふむ』
「お前は輝硬石を作った記憶や、作っていいと許可した記憶はあるのか?」
『我は許可した覚えはあらぬ』
「これは朱雀の、赤の輝く石で出来ているように思うが、どうだ?」
ラクダは足でそれを叩いたり、口にくわえたり、歯でかみ砕こうとしてみたが、欠けることはなかった。
『何者かが、我の身体で輝硬石を作っているとでも言うのか?』
ラクダは明言を避けたが、否定をしていないところにラクダの結論がある。