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吼える月
第35章 希求
「もしかするとラックーが、元の身体から追い出されたのは、色々と思惑があるからかもしれんぞ。それがヨンガの遺志なのかはしらねぇが」
そしてサクは回りを見渡しながら言う。
「問題はそれだけじゃねぇぜ? この赤いものが輝硬石だとしたら、普通の鏡ならまず砕ける。すげぇ速さでこの鏡に反射していたんだからな」
ココココという音は、鏡にぶつかった音だった。
音を思えば、それはかなりの速さで移動していたはずで、それの衝撃はかなりのものになると思うが、見たところ、白銀の鏡には傷ひとつついていないようだ。
「サク、だったらこれは……」
「俺達が見た中央の武器の源。白虎の輝硬石かもしれないですね」
サクはユウナに頷いて見せた。
『しかし、同胞の輝硬石が我の領地に持ち込まれたら、いくらなんでも我はわかるかと……』
「わからない今の姿になってからかもしれねぇぞ。見た感じ、これらの鏡は古そうに感じねぇしな」
ラクダは考え込んだ。
「とにかくは、ラックーが朱雀の身体や朱雀の力を持っていないことで、ラックーにとってありえないことが目の前で起きているのは事実だ」
『………』
「目の前にあるのが白虎の輝硬石だとしたら。他国の神獣に縁があるものを、緋陵の民は持ち込んだことになる。どんな理由があったにしろ、朱雀ではなく白虎の力を借りようとした、そういうことになるな」
緋陵では朱雀を信仰していなかったのか。
それとも朱雀の力を知った上で、違う神獣の力を借りないといけない特殊な事情があったのか。
それとも……。
「知恵の白虎、白陵の民の差し金か」
「もしも白陵の入れ知恵があったのなら……」
ユウナは怯えたような顔で、先を見る。
鏡の迷宮のようなその先を。
「こんな程度では終わらないと思うわ。あの光とあの音は、明らかに侵入者を弾くものよ。まだなにかあるのかも。あたし達はサクがいてくれたから助かったけど、その赤いのが身体にでもあたったら……」
『よくその剣で弾けたな』
サクは剣を見ながら言う。
「もしかすると、緋陵出のお袋の剣だからかも知れねぇな。普通の刃だったら、折れてたかも知れねぇや」
そしてサクとユウナは顔を見合わせて言った。
「「シバとテオンは、大丈夫なのか?」」
緋陵の武器を持たないふたりは――。