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吼える月
第36章 幻惑
◇◇◇
少し時を遡ること、生まれも育ちも青龍組と謎の少女と熊鷹組――。
朱雀の力により、開かず……というよりは近づけずの扉だった、石の建物の内部に至る入り口は、突如青龍を宿したシバが、怒って叫びながら両手から発した青龍の力で、朱雀の力を押し返し突破口を切り開いた。
彼らを襲った骸骨の残骸も消え果て、今広がるのは、建物内の深淵へと誘う新たな入り口と、不気味なまでの静けさだ。
ここは砂漠化した緋陵の地下。
彼らを連れた大きな蠍は姿を消したために退路を失った彼らは、今目の前に広がる新たな道に進むしか、無事に地上に出る手段はない――テオンは無意識に悟っていた。
それでも、自分達には故郷の神獣、青龍が降臨してくれている。
それが、ユエと共に喜んで小躍りしているテオンの心強い味方となった。
「凄い、凄いよ、シバ! あ、青龍か」
シバの海のような青く輝く長い髪は、青龍の銀鱗のように神聖なる白銀の色を混ぜて、その際立った美貌を実に神々しいものへと変えていた。
「我の力ではない」
「そうだ、ほぼあいつが……サクが、衝撃を受けて力の均衡をなした」
「だがお主も頑張ったぞ」
「世辞はいらん」
……シバの口から放たれる、声音が違うふたり分の言葉。
無論、青龍とシバであるが、ギルのように青龍だけが表に出ていないために、傍から見れば奇妙を通り越して不審である。
「じゃあ向こうにいるお兄さんも、やはり同じ目にあっていたんだね」
手紙を出していてよかったとテオンはほっとする。
サクは放置しても生きていそうなしぶとさがあるが、見た目か弱いあの黒陵の姫と(内面は強情だが)、朱雀の本体であるラクダは、あまりにも無力だ。
ラクダが死んでしまったら緋陵は再生出来ない上に、黒陵の神獣も助けられず、倭陵全土がどうなるかわからない。
姫が死んでしまったら、サクは神獣を助けることすら放棄して、忘我の果てに狂い、あの強さで姫のいない倭陵を滅ぼすかもしれない。
あのふたりと一匹は、ボケボケしているが危険な存在なのだ。