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吼える月
第36章 幻惑
「中にも罠が仕掛けられているの!?」
「ああ、恐らくは。しかしここでぼやぼやしている時間もあらぬ。我の力もいずれ消える」
「……ねぇ、青龍。今……蒼陵国はどうなっているのさ」
するとしばしの沈黙を経て、シバの声が返る。
「……これが、オレの選択の結果か」
「お前が戻ろうと、事態は変わらぬ」
「ちょ、ちょっとなんだよ、ねえ、どうなっているのさ!」
シバが言った。
「蒼陵は――あのゲイという奴に再度攻められている。しかも尋常ではない魔物の数を率いて」
「はああああ!?」
「我が宿ったあの人間は瀕死。武神将も全力で戦っているが、時間の問題だ。我も蒼陵を守ってはいるが、猛攻が激しくてな」
「じゃあ、なんでこっちに来るのさ!」
テオンは悲鳴のような声を出す。
「未来の祠官よ。我は眠り過ぎていたゆえに不甲斐なく、まだ力が完全に戻ってはおらぬ。蒼陵を滅ぼさぬためには、他の神獣の力を借りねばならぬ」
「で、でも玄武はイタチで眠りについて、朱雀は力を失ったラクダだよ!? 白虎……白虎に力を借りるってこと!?」
「否。白虎は応答あらぬ。即ち――」
ユエがそこに口を挟んだ。
「テオンちゃん。青龍が現われて協力してくれたのは、イタチちゃんとラクダちゃんを元の姿に戻して、力を取り戻すこと。そしてあわよくば……神獣二匹の力を借りて、青龍ちゃんと合わせて三匹で敵を蹴散らしたいんだよ」
ここにも神獣を畏れず、ちゃん付けの謎の少女がいる。
「ふむ。……我達は〝匹〟ではあらぬが」
「そこはどうでもいいよ、青龍! じゃあなに、それじゃなくても玄武を助けるのに時間制限があるというのに、それに蒼陵の存亡もかかって、さらに時間を早められたわけ!?」
「然り」
テオンはよろけて、痛む頭を手で抑えた。