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吼える月
第36章 幻惑
 

「武神将のこの息子や未来の祠官が蒼陵が戻っても、今の状況では歯が立たぬ。それゆえ我は、急遽なされた嘆願にこれ幸いと乗り、ここで力を貸そうと思ったのだ。しかし蒼陵を守っておる我が力と、他国での我の出現持続に、長くは今の我の力は持たぬ」

 するとテオンは癇癪を起こしたように、叫び出す。

「ああ、もう時間がないなら、さっさとここを進んで、お兄さんと合流しようよ! 玄武も朱雀もあっち側なんだから! なんならお兄さんに乗り移って、先に朱雀を戻しても……」

「我は、我の力を宿す者しか宿れぬ。即ち青龍の武神将の血に連なる者しか」

「わかった! だったら早くこの先を進んで行こう。死に物狂いで進んで、お兄さん達に合流しよう」

 穴が空いているそこにテオンが片足を踏み入れた時、熊鷹が大声で泣いた。

「テオンちゃん。ワシちゃんが、サクちゃん達を乗せて連れてこようかと言ってるよ?」

 するとテオンは、嬉しそうに手を叩いた。

「偉いぞ、ワシ! だったら連れて……」
「無理だ」

 そう答えたのは、シバの声だった。

「あいつらはもう中に入ってしまっている。このままだと青龍を宿してもオレはあいつらを見失うだろう」

「だったら、ワシ! 早く中に入って追いかけて……」

 くぇぇぇぇぇ!

 熊鷹も胸を張って、両翼をばさばさと広げて見せたが、シバは頭を横に振った。


「……こちらからは入っても、あいつらのところに届かない。向こうからは……あいつらの気が遮断されてしまったな、既に取り込まれたようだ。中の……なにかの呪詛に」

 するとテオンは目を細めた。
 
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