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吼える月
第7章 帰還
 


 サクが、中途半端に刺激されて……猛るにいいだけ猛ってしまった自分自身を鎮めようと、開けた窓から流れ込む清々しい空気にて深呼吸をしていた時、サラがにこやかに部屋を訪れる。


 厳かにその場で傅(かしず)き、ユウナに朝の挨拶を告げた。


「おはようございます、ご気分いかがでしょうか。朝餉の支度ができあがりましたので……姫さ……まっ!?」


 ユウナを下から見遣ったサラの目が、次第に見開いた。


 服ははだけ乱れた姿を見せる、悩ましい風体のユウナ。

 対するサクは、飾り紐で縛られた腰の片側にだけ、服をひっかけるように巻き付けている……半裸というよりほぼ全裸状態で、こちらに汗ばんだ背を向けている。

 さらには荒い呼吸を肩でしているようで……。



「こらああああ、サクっ!!」


 サラが……爆ぜた。

 疾風の如く走り弾丸の如く跳ね、サクの腕を引いてこちらに向かせた。


 そして――。



「へ!? お袋、なに怒って……」




 バッチーーーーン。

 

「……いぃぃぃぃっ!?」


 ハンをも怯ませる般若の形相にて、サラの張り手が息子の頬に炸裂。

 それは武闘大会上位者のサクいえども、躱すことができぬほどの早さだった。


 普段はあどけなさを残す、愛らしい面持ちのサラ。

 そこからの変貌に、ユウナの目は驚愕にまんまるに見開き……口もとをただ両手で覆って唖然と見守るしかできなかった。



「この不埒ものが――っ!! 姫様に、あんた姫様に――っ!!」

「違うよ、俺なんにもしてねぇって!! むしろ被害にあったのは、ずっと添い寝で我慢していた……」


「母さんは、辛い境遇におかれた貴い姫様をひん剥き、さらに全裸で添い寝するような卑猥な子に、育てた覚えはなああああいっ!!」



 バッチーーーーン。



「――ってぇぇぇぇ!! なんで俺がっ!!」




 ……サクの両頬に、不本意な赤い手形がついた、そんな朝。



 その朝は、ユウナが婚儀を迎える予定日の始まりであり、玄武殿の有様を知らぬ人々は……、凶々しい夜が明けた解放感からか、いつも以上に陽気に賑わい、婚礼祝福のための華やかな飾りつけをしていた。

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