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吼える月
第36章 幻惑
ぴぇぇぇぇぇ!!
突然熊鷹が鳴く。
奥から、また骸骨の兵隊達が現われたのだ。
「ユエの笛!!」
ユエはまた横笛を吹いたが、骸骨の動きはとまらなかった。
「どうして? あの骸骨さん達は、邪気で動いているわけじゃないの?」
狼狽するユエの声を聞きながらも、テオンは天井をじっと見つめていた。
「映っていない……。あの骸骨が、映っていないんだ」
「どういうことだ?」
シバも天井を見てみるが、そこには非対称な……円環というよりは曲線で出来た迷路が続いているだけだった。
そう、目で見て進んできたのと、鏡に映っているのは違ったのだ。
「僕達は、目をあてにしちゃいけない。……ならば、鏡に映るものを真実として進もう」
テオンは天井を見上げながら歩いた。
「テオンちゃん、落っこちる!!」
「大丈夫さ。ちゃんと鏡には道がある」
道が途切れても、テオンは溶岩を下にして道なき道を進む。
ぴぇぇぇぇ!!
熊鷹が骸骨の兵士を知らせるが、無視するテオンの横に骸骨は擦り抜ける。
「大丈夫、僕達はここから出られる!!」
目で見える道を無視しての移動。
朱雀から作られた輝硬石だけを頼る様は、信心というものにも似ている。
神獣から見る、ひとの目の頼りなさ。
ひとは自分達が正しいと盲信して、見えない神獣の存在を忘れてしまう。
それは、サク達が来る前の蒼陵国の民のように。
神獣はどんな時も神獣で、人間達の傍に居る――そう考えれば、どんなものが来ようと逡巡することはなかった。
「善き哉、善き哉。我ら神獣の力だけを信じて進む様は。これこそ我らが神獣が望むこと」
人間を導くために在る神獣。
それは人間の驕りを諫めるものなのかもしれないと、テオンは思った。
「よーし!! 行き着いた!!」
近くて遠かった出入り口に行き着いた途端、シバが呻いた。
「すまぬ……。時間切れだ。我は蒼陵国で待っておる。必ずや、玄武と朱雀を……」
……そして、シバから青龍は消えた。
それはあまりに突然の別れだった。
今まで心の支えとなっていた神獣が去った今、人間の五感だけに頼って進まねばならない。
それはテオンに不安な翳りを落とさせた。