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吼える月
第36章 幻惑
「このままじゃ駄目だ」
カキーンカキーンと刃と刃が火花を出してぶつかり合う。
睨み合うふたりの目は、仲間としての親愛の情は消え去り、憎悪にも似たぎらついた炎が宿っている。
ふたりの闘争本能に火が着いてしまったのは明らかだった。
「どうすればいい……」
シバの頬にサクの剣が掠り、そしてシバの刃がサクの袖を掠めている。
神獣の力を使わない剣戯の実力は似たようなものだ。
だがあの大きな青龍刀を使うシバの方が、細身のサクの剣よりも攻撃力があることは、一目瞭然だった。だとすれば、武器の分サクが不利とも言えた。
必死に打開策を考えようとしても、頭が霞がかって朦朧としている。
なんとかしなきゃという焦慮と、仲間の分裂による悲劇を怖れる気持ちが、彼の頭の回転を凍り付かせて、テオンの思考を曇らせる。
どうしよう、どうすればいい?
「青龍、僕はどうすればいい……」
……ユエの笛の音が響いた。
なぜユエが笛を吹き始めたのかわからないけれど、その音がテオンの思考の曇りを少しずつ取り払っているように思えた。
だから、テオンは考えられたのだ。
なにか違うと。
景色に違和感を感じた。
欠けた絵図のように、なにか決定的におかしいものがある。
それは――今さらだった。
「なんでラックーがいないんだ?」
それだけではない。
「お姉さん、ラックーと首に巻いていたイタチをどうしたの!?」