この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第36章 幻惑
「残念だったね、お姉さん。僕は幻を操れる。誰よりも幻に詳しいんだ。幻は、見ている人達が真実だと思うことで、真実そっくりになる」
「テオン、あたし達は幻なんかじゃ……」
「真実じゃないとわかれば、幻の役目はおしまいさ。幻は真実にはなれない」
それでも今の今まで本物と信じていたけれど……とは口にせず、テオンは叫んだ。
「神獣青龍の名において、僕達を惑わす幻影よ、消えよ!!」
……迷いない心で、武器を持たない彼自身が鋭利な剣となり、サクとユウナに切り込む。
「テオン……なぜ」
「どうして、あたし達を……」
テオンの確固たる信念に、ふたりの姿をした幻影が揺らぐ。
「シバ、今だ!!」
ふたりの視線がテオンに向いたその一瞬、シバは青龍刀を横に薙ぐ。
一閃――。
サクとユウナだったふたつの影は消えた。
跡形もなく。
「きゃはははは! テオンちゃん、正解おめでとう!」
ユエが熊鷹と喜び踊る。
「よかったよ~、合ってた~」
テオンはへなへなとその場に座り込んでしまう。
「ユエはわかっていたの? ふたりが幻影だって」
「うん。だってイタチちゃんがいなかったから。テオンちゃんに言われて、ラクダちゃんがいないことに気づいたけど。きゃはははは」
あれだけの巨躯で存在感を示していたラクダではあるが、ユエにとっては小さな細い白イタチの方が存在感があるらしい。