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吼える月
第36章 幻惑
「もし間違っていたら、僕死んでも死にきれなかったよ」
協調性と平和を重んじるテオンは、不和や悲劇を嫌う。
だからこそどうすればいいのかわからず固まってしまったが、邪気を払うというユエの笛で綻びを見つけた途端、幻を操るテオンの独壇場になった。
テオンの弱みと強みが表裏一体となったふたりの影を本物だとずっと思っていたら、どんな罠が待ち受けていたかわからない。
「もしかすると、僕に衝撃を与えるために現われた幻なのかなあ。だってシバは最初から見抜いていただろう? ユエだってすぐ笛吹いたということは、おかしいとわかったからで。はぁ……、僕、まだまだだなあ」
そう嘆くテオンは、自分だけに仕掛けられた罠だとしたら、随分と中途半端だと思い首を捻る。
これならば、誰かに看破されてしまえばそれでおしまいじゃないか。
だったら。
攻撃力を持つシバに罠をかけた方が――。
テオンは、立ち竦んだままのシバを見て怪訝な顔をした。
「シバ、どうしたの?」
しかしシバから応答がない。
青龍刀を片手で握りしめたまま立ち竦み、サクとユウナが消えたことに気づいているのかわからない。
テオンが回り込んで、シバの顔を見上げると、シバは目を見開いたまま、恐怖の顔で硬直していた。
「シバ!?」
「……やめろ」
シバの口から弱々しい声が漏れた。
「やめろ……っ」
その精悍な美しい顔が、歪みきっている。
嫉妬のような動と、堪忍のような静を織り交ぜて。