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吼える月
第36章 幻惑
◇◇◇
一方、こちら黒陵組とラクダの一行。
逆さまになった溶岩の道を抜け、岩壁の出入り口から中に入ったものの、中は暗く肌寒い。
時折、下方で微かにだがぴちょんぴちょんと音がする。
それを聞きながらサクは、蒼陵でシバに初めて合った〝海吾〟の砦も、そんな部分を通ってきたことを思い出していた。
溶岩の次は、水で覆われた水洞か鍾乳洞のようなところに入ったのだろうかと、砂漠の下の不可思議な地形に訝りながら、視界が闇に覆われている現在、反響する音だけを頼りにしてサクは先頭を歩いていた。
道幅は先ほどよりもかなり広くなったため、非常に歩きやすい。
音の響き具合から、空間内の広さは然程ないにしても、まだ底辺との高さはあるようだ。
用心するに越したことはない。
そしてさらには、なにか甘い微香も漂っている気がする。
それは花というより、果実のような。
この暗闇にそんな香りがあることに違和感を感じるサクは、さらに警戒を強めた。
「姫様、怖かったらおんぶでも抱っこでも好きな方を言って下さいね」
自分の服の裾を握られているのを知りながら、サクはわざと陽気に尋ねる。
きっとユウナは「子供扱いするな」と、可愛い頬を膨らませることだろう。それを見られないのは非常に残念だと思うサクであったが、片手が握られたのを知るとぎょっとする。
「ひ、姫様!?」
サクの声が裏返るが、さらに声を裏返させたのは、確信犯的な覚悟を決めたユウナの方だった。
「こ、こっちでもいいでしょう!?」
暗闇でよかったとユウナは思う。
明るかったら絶対真っ赤な顔の自分をサクに見られて、からかわれていたはずだ。
「な、なにをしているんですか!」
そう言いながら、ユウナと同じく顔を赤くさせているサクの手は外れない。
それどころかぎゅっとユウナの手を強く握ってくれば、ユウナは心臓も握られたかのような衝撃に震えた。