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吼える月
第7章 帰還
 

「……完全におたずねものね、サク」

「……ああ。陽が昇ればすべてはないことにされる……そんなに甘い現実ではなかったみたいだ」


 サラは下女に言った。


「サクが帰還したことは、近衛兵に話しているの?」

「はい……。門番が……」


 部屋の外で、屋敷の主人の謁見もせぬまま、不躾にも荒々しく戸を開けながら、屋敷を勝手に見て回る狼藉者達の音に、サラの顔は無慈悲なまでに冷酷な顔つきとなる。


「私が時間稼ぎをしましょう。サク……、そこの窓から外にお逃げなさい。私があしらうから」

「俺……蹴散らかそうか?」


 凜とした声でサラが言う。


「そんなことをしたらますますサクの状況が悪くなるだけでしょう。誰が息子を悪者にさせるものか! 最強の武神将のハン=シェンウの妻のこのサラ、不在の夫の代理として……息子を護ります。ハンがいないからと、なめられてたまるものですか!」


 威厳に満ちた姿に気圧された下女は言葉を失い……、ユウナはまたもや勇ましいサラの変貌を唖然として見ていた。


 サクだけが至って平然としており、愉快そうに口もとで弧を描く。


「お~。お手並み拝見。じゃ、ちょっくら姫様と散歩行ってくるわ」

「ええ。そうして頂戴。サク――」


 サクに放られたのは、壁に掛けられていた小太刀。

 それはサラがハンに嫁ぐときに持参した、実家に伝わる宝刀であり、名宝として、一緒にこの部屋に飾られているものだった。


 真っ赤な珊瑚で作られた鞘に入っている。


「初めてだな、お袋の宝物……俺に触らせたの」

「非常事態だからね。とっ捕まるんじゃないわよ」

「……ったりめぇだ。何年、武神将の息子やってると思ってんだ」



 サクはにやりと笑うと、ユウナを両手で抱いて窓から外に出た。


 
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