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吼える月
第36章 幻惑
「イタ公だけに、無理させちゃ駄目だよな……」
神獣が辟易する厄介な相手と契約してしまったのなら、それにより自分は普通以上の大きな力を手に入れられるかもしれない。
四凶に対抗する力は、四凶と神獣の力を自分で制御出来るようになった時、初めて手に入る――すべては考え方次第。
命尽きる最後の一瞬まで、ユウナと共に生きるための――。
「サク?」
「いきましょうか、姫様。ラックー。……イタ公の刀が、シバのところを案内してくれるでしょう。神獣の力は共鳴しますから」
サクは地面に、僅かばかりの疑念を抱いていた。
これは本当に平坦なのだろうか、と。
今まで歩いてきた道や、薄暗い今の視界を思えば、倭陵の中央の皇主が住まう、皇城に匹敵するかそれ以上の面積がある建物を作るのは、対外的に目立ち過ぎる。
しかし上下なら、秘やかに工事を進めることも出来るだろう。
ならば自分達は、平衡感覚を攪乱させられながら、罠をひとつずつ抜ける度に、緩やかな斜面を回り込むようにして、下の中心に向かっていたのではないか。
そう、青龍殿のように。
そう思い、地面の小石を地面に転がしてみると、ころころとどこまでも転がり、サクは下に向かっているという推論を確定する。
つまり棺は、横に広いのではなく上下に長いものだ。
もはやこの規模のものを棺と呼んでいいのかわからないが、そうまでしなければいけない理由を考えれば、中央にいるのは――。
サクは目を細めた。
そして別口から入ったシバ達もまた、罠を切り抜けながら中心に向かっているはずなのだ。
これは早く合流した方がいい。
サクの予感が告げている。
待ち受けているものは、予想を裏切る事実だろう。
「玄武刀よ、青龍の刀と力を持つシバやテオン達の道を示せ」
サクの言葉に呼応するように、きん……と音がなり、玄武刀が青白く光る。
「見て、なにか映り始めた!」
ユウナが驚きの声をあげる。
「これは――」
サクもまた、現れる映像に目を瞠った。
「そういえばイタ公ちゃん、シバ達も危ないって……」
「早く、行かないと。あいつらが、危ねぇ!」
問題は、この道が繋がっているかだ。
しかし刃先から零れる水色の光は、感覚を惑わせる薄闇の中を案内するようにして揺らめいていた。