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吼える月
第7章 帰還
「お~、派手にやってるなお袋。陽動じゃなく、本気かよ」
「な、なにを……」
「お袋はおとっりそうに見えて、過激な武闘派なんですよ」
「武闘……!?」
「そのギャップに親父は惚れ込んだそうですけどね。夫婦喧嘩した際なんか、お袋が家の中派手に壊すんで、親父はお袋を抑える担当、俺は屋敷の中片付ける担当で、大忙し。喧嘩したら親父よりお袋の方が強いです、間違いなく。あ、このことはご内密に。お袋は、永遠の乙女路線突っ走って、皆の目を騙していますから」
笑うサクは様子を窺いながら、刺々しい茨の垣根が植えられている中庭に出た。その裏は高い外壁、普通の人間が飛び越えられる高さではなく、思いきり跳ねたとしても茨が体に接触して無事にはすまない。
「いいですか、姫様。俺にしっかりしがみついていて下さいよ?」
そしてサクは駆け……塀の真ん中あたりの位置にて、垣根の色あせた部分に足を差し込む。
そこに隠されていたのは石台。
それを踏み台にして一気に外壁を飛び越え、その向こう側で宙返りして着地した。
幸い、通りには人はいない。
サクはまた自分の上着をユウナの頭に被せた。
「サク……」
ユウナが、サクを見上げて徐(おもむろ)に口を開いた。
なにかを訴えるような眼差しだった。
「なんですか?」
サクは首を傾げながら、ユウナの次の言葉をじっと待つ。
「お猿みたい」
「うるせぇですよ、姫様」
無表情だったユウナの顔に少しばかり柔らかさが戻り、サクは思わず顔を緩め、いつものような口調で返した。