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吼える月
第7章 帰還
「その調子です、姫様。さっきみたいにぶすっとしてると、可愛くねぇですから。かといってお袋のように喜怒哀楽激しくても、可愛くねぇですけど」
「か、可愛くなくて悪かったわね。それにサラは表情が魅力的だし、とっても可愛いわ。それはサラに失礼よ」
「狂暴さを隠してるお袋を、可愛い可愛いって猫可愛がりする奇特な奴は親父ぐらいなもんですよ。あんなのが可愛いのなら、黒陵の美姫と言われる姫様はどうなるんですか。それとも俺が親父のように、姫様を猫可愛がりして、その魅力的な表情とやらを作ってみます?」
サクが真摯な表情を作り、ユウナの頬を撫でて言う。
「姫様は……すっげぇ可愛いです。他の女など及びもしねぇ。姫様、このまま……俺の腕の中に閉じ込めていいですか。俺の中で、その可愛い顔を……ずっと俺だけに向けていてくれませんか……?」
僅か……ハンがサラに口にしている言葉を模しながら、そこに微かに自分の本心を織り交ぜたサクは、ハンと同じように無意識にその瞳をとろりとさせ、ユウナの反応を待つ。
「………」
「………」
「……おーい、姫様」
「……っ」
「な、なんでそこで顔を赤らめるんですか! 冗談に決まってるでしょう。いつもみてぇに、キーキー言い返して下さいよ。なんだか俺が、小っ恥ずかしい気障男みたいじゃないですか!」
「いや、その……」
もじもじとする様は、"可愛い"だけに反応しているのではない。
「サク……お風呂……あ、いいの。何でもない」
ユウナは思い出したのだ。
とろりとしたサクの瞳から、風呂でのサクとの睦み合いのような触れあいをしたことを。
「今さらかよ……」
ぼそっと、密やかにサクは呟いた。