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吼える月
第37章 鏡呪
◇◇◇
一行は、緩やかな道なりに進んでいく。
「ワシちゃん、こっち。手の鳴る方へ」
「きゃははははは。こっちこっち!」
ユウナが着ていたサクの上着で目隠しをされた熊鷹は、ぱちぱちと手を叩いて呼ぶユウナとユエを追いかけ、行ったり来たりと足を惑わせる。
ぴぇぇぇぇ!?
「うふふふ、違うわよ。ワシちゃん、こっちよ」
「きゃはははは!」
その光景には、束の間の平和さが漂っていた。
『これ、あまり騒ぐでない。起きてしまうではないか』
蹄の音を極力立てないようにと、静かに歩いていたラクダが諫めると、ユエとユウナは肩を竦めて顔を見合わせる。
暖かいラクダの上ですぅすぅと寝息をたてるテオン。
寝台にしろと申し出たのは、ラクダなりの労(ねぎら)いらしい。
『しかし、なぜ我が国にこうも容易く、四凶が忍んだのか』
ラクダが嘆息する。
『守護する神獣の役目が機能していないのは、なにも我だけとは限らぬ』
「そうだよな。イタ公はともかく、蒼陵だって青龍はぐーすか寝てたんだから」
やや語弊はあるが、青龍は民に存在を忘れられるほど、長き眠りに入っていたのだ。
「だけどジウ殿は青龍の力を使えたし、神獣の加護はあったんだよな。そう思えば緋陵は、朱雀の力が一切ねぇからとかは?」
『ふむ。しかしこの棺が、我ヘの朱雀への嘆願で成り立っておるのなら、力の行使がたとえ人間であるとしても、我の力で加護していることには他ならぬ』
「そう言われれば、嘆願……確かにそうだよな。しかも、鏡も……」
『然り。鏡が神獣の力を失わせていた』
サクは思い出す。
テオンの危機を知らせた玄武刀が導いたのは、道なき道。
道がないと思えば体が落下する、強い意志こそすべての道。
そして行き着いたのは壁のようにして塞がる、大きな赤い鏡の前だった。
それが輝硬石だとすればあまりに大規模すぎて、なぜ今までこれに行き当たらなかったのか不思議になるくらいだ。