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吼える月
第37章 鏡呪
孤高の一匹狼だったシバ。
彼が見いだした己の意思は、すべての弱さを受け入れた上での、祠官を目指すテオンへの絶対忠誠だった。
それは、今までの彼の生き方や考え方を否定するものである。
しかし、そうまでしても、シバもテオンの行動に感銘を受け、テオンを『守りたい』と思ったのだ。
サクがそれを見て、嬉しそうにぴゅうと口笛を吹く。
「……それは、僕が青龍の力を持ったから?」
しかしテオンの声は堅く。
「いいえ。青龍の力を持つほどの心意気に心奮えたゆえ」
「そうかな。シバは、幻だろうが、魔に取り憑かれていようが、僕を殺そうとした。そんな男に、僕が今まで通りの信頼を寄せられると思う?」
それは、直前のテオンの献身を思えば、冷淡にも思える辛辣な言葉だ。
シバはぐっと言葉を飲み込んだ。
「テオン……、言い過ぎじゃ……」
「姫様、しっ」
サクはユウナに向けて、己の唇に人差し指をたてて見せる。
「僕が相手だからと、簡単に仕官出来ると思っていない? きっとお兄さんなら、お姉さんにその場で死ねと言われたら、迷うことなく死ぬと思う。シバは、僕に言われたら死ねるの?」
「出来る!」
失った信頼を取り戻すには、今ここから始めないといけない。
「じゃあ証拠を見せてよ。シバがどれだけ僕を主として信頼し、どれだけの覚悟を持って尽くせるのか」
「……なにをすれば」
「だったらその綺麗な顔を、青龍刀で切って、見る事も出来ないくらい醜い顔になってくれる?」
悪意のこもったテオンの言葉に、シバは――。
「お安い御用」
刀を手にして、迷うことなく顔に突き立てた。