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吼える月
第37章 鏡呪
「テオン、ふざけるのもいい加減にしろって」
……が、肌に突き刺さる寸前で、サクが指で刃を受け止めている。
「ひぃぃぃっ、ごめんよ。シバがあまりにも従順すぎて、悪乗りしすぎたよ」
テオンは本気に顔に傷つけようとするとは思っていなかったらしく、青ざめた顔をして震えていた。
そして――。
「僕がしたくてしたことだ。シバが責任を負うことはないよ」
「責任ではない。オレ……私が、初めて貴殿に仕えたいと思ったゆえに」
シバにとっては、初めてなのだ。
ひとに頼み、下で使ってくれと、頭を下げるのは。
その姿を見せて尚も、テオンは喜んで受け入れない。
「……ふぅ。条件がある。シバがそれを出来るなら」
「なんなりと」
シバは、僅かにほっとした顔を上げた。
「ひとつ。その畏まるのをやめて、いつもの通りでいて欲しい」
「え……」
「気持ち悪いんだよ。偉そうにふんぞり返っている、いつものシバでいてよ。僕と対等でいて!」
「……わかった」
色々と言いたいことはあったが、シバはそれを飲み込んだ。
「それともうひとつ。命を粗末にしないで。僕のために命をかけるとか、誰かのために命を捨てるとか、そういうのを含めて。シバの命は皆と同じく尊い。それを特に魔などにくれてやろうとしないで」
「わかった」
シバはしっかりと頷いた。
「そしてもうひとつ。シバは僕ではなく、蒼陵に仕えて欲しい。だから僕が間違った意見を口にする時は、全力で僕を止めてね。まだ祠官にはなっていないけれど、僕が望むのは民の支配ではない。蒼陵の民と共にあること。それはシバもだよ」
再び、シバは頷く。
「そして最後にもうひとつ。これは頼みというより、僕の願いなんだけれど。シバ、ジウの後を継いで、青龍の武神将になってよ」
それにシバは、頷く代わりに苦々しい表情を浮かべる。