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吼える月
第7章 帰還
「姫様、昨日のはただの"洗浄"です。そこには、なぁんの"特別性"はありません。変に意識されると守れなくなっちまうから、もじもじは禁止です」
「……」
ユウナは、割り切れるサクに恨みがましい目を投げた。
あんな恥ずかしいことをしておいて、それは"洗浄"だと言い切れるあたり、サクは自分を女として意識していたわけではないのだろう。
主人だから、そうしただけ。
そこに寂寥感はあれども、なにかほっとする。
いつものサクがいるから。
昔と変わらぬサクがいるから。
……自分は穢れ堕ちる寸前で、昔と同じ日常の世界で踏みとどまっていられるように思えるのだ。
「……ありがとう」
「ん?」
「サクのおかげで、少しだけ……薄れた。悪夢のようなこと……全部」
"悪夢"。
それが意味するところの重さを十分知るからこそ、サクは陽気に笑う。
「あれだけ洗浄したのに、少しだけですか。だったら今度はもっとたっぷりしてあげましょうかね。姫様、俺の洗浄をお気に入りのようだったし、洗浄係に拝命下さればいつでも!」
「……っ、サクの馬鹿! 馬鹿馬鹿っ!」
真っ赤な顔でぽかぽかとサクの胸を叩くユウナに、サクは呵々と笑う。
ユウナの結婚が決まってから、サクもまた……ユウナにこうして笑いあうことができなかった。
奇しくも、ユウナが凌辱されたからこそ、絆が再度強まりこうした場面が早く訪れたことを複雑に思いながらも、ユウナの顔や心が少しずつ解れていく様を見れるのは、サクには嬉しかった。
……恋心を犠牲にして、どこまでも浴室での睦み合いを引き摺りたいことを、それ以上のものを望むのを堪えて、"洗浄"というひと言で笑って片付けたからこそ。