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吼える月
第37章 鏡呪
「虚ってなにかしら」
「わからねぇですが、今まで思えば散々幻が出張っていました。そうした類いなのかもしれません」
『嘆願された記憶がないとはな……』
ラクダが嘆く。
「やはりヨンガは狂ってなんかいねぇよ。来たるべき〝悪しき光〟から緋陵と民を守ろうとして、嘆願をした。家族を犠牲にしてまでの強い想いだ。その上で、嘆願が破られてしまえば、今度は血の呪いとやらが発動するという二重の呪いをかけたことになる」
『呪い……。なにやら凶々しいものを感じるな』
「ああ。だから、わざと四凶を組み込んだのかもしれねぇ」
「故意的に、四凶をここに閉じ込めていたと?」
シバが訊く。
「……ああ。こっちにしてみりゃいい迷惑だけど、番犬とするなら優秀だろう。特に神獣の力を好んでいるのなら」
「待ってよ、お兄さん。だったら、ヨンガが想定していた〝悪しき光〟っていうのは、神獣の力を持つ者達ってこと!?」
「……可能性はある。だがな、テオン。この雰囲気……蒼陵と似てねぇか」
サクは目を細めて言う。
「……まさか、お兄さん。緋陵も蒼陵のように、外部干渉があったと?」
「ああ。この棺には、朱雀から作られる赤い輝硬石だけではなく、白虎から作られる白い輝硬石もあった。緋陵の、しかも朱雀の武神将が家族を犠牲にしてまで守ろうとした中に、他国の介入をヨンガは許していることになる」
テオンは、尻に敷いているラクダに声をかける。
「ねぇ、ラックー。過去、他国からお忍びで誰か、ヨンガを訪ねてきたことがある?」
『はて、どうだったかの?』
「思い出してよ、ラックー。もしかして、緋陵も……銀の、リュカ……黒陵の裏切り者の奸計の内にあるかもしれないんだ」
ユウナはイタチを撫でながら、きゅっと唇を噛みしめた。