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吼える月
第37章 鏡呪
『リュカ……リュカ? なにか聞き覚えがあるな』
ラクダが反応を示し始めた。
『リュカ……確か、その名前の者が、ヨンガに会いに来たかもしれぬ」
「本当に!?」
「……おお、そうだ、間違いない。黒陵の文官で、僅かに足を引きずっておった男が、白陵のカグラという男と共に。あれは、一年くらい前じゃったか」
「どうしてそんな大事なこと、今まで黙っていたんだよ、ラックー!」
『そうは言うても、我も今の今まで忘れておったのだ。リュカという、あまりこの国では聞かぬ名前ゆえ、それを耳にして思い出したのだ……』
ガツン!!
サクは険しい顔をして、玄武刀を地面に叩き付けた。
一年前――。
蒼陵にリュカが秘密裏に上陸した年であり、ヨンガが狂ったとされる年だ。
さらに、見知らぬとはいえ白陵の者を連れたとなれば、白陵も既にリュカの手が回っているはずだ。
サクはぎりぎりと歯軋りをする。
「やっぱりか」
凶々しい赤き月夜に向けて、リュカが仕えるゲイのために、各国の神獣の守護力を弱めるようにリュカが動いていたことは間違いない。
「この状態を引き起こしたのは、リュカか……」
どこまでもリュカは先を読み、どこまでも自分はその後を行く。
一年もリュカは本心を隠し通し、一年も自分はリュカの本心を知らなかった。
それを散々に思い知ったはずなのに、あんなに相対していても尚、リュカにはやむを得ない事情があったのではないかと思ってしまう甘さが恨めしい。
「カグラって誰かしら?」
「白陵のカグラって、白陵の武人将の息子じゃなかったっけ。武闘大会には出てこないけれど、かなりの知恵者という噂だけれど」
テオンの言葉に、シバは薄く笑って言う。
「だとしたら、俺達を見ているだろうヨンガに会うには、至難の業というわけか。なにしろ、蒼陵を滅ぼしにかかっている銀の参謀と、知恵の白陵のさらなる知恵者が、手を組んでいるとなれば」
「ラックーを元に戻すのも、イタ公を目覚めさせるのも、ヨンガに会うのにも。あいつらとの知恵比べということか」
気が遠くなりそうな道のり。
忙しく動き続ける蠍を見て、サクは目を細めた。