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吼える月
第3章 回想 ~予兆~
「サク」
消沈して背中を向けたサクに、リュカが柔らかな声をかけた。
その穏やかな声音が、優位性を見せつけているようで彼を苛立たせる。
「なんだよっ!!」
振り向いた瞬間、ユウナが密やかに前もって用意していた籐の籠の中から、山にある花びらを手で掬って、彼に振りかけた。
「優勝おめでとう〜。サクはあたしの自慢だよ?」
ユウナが嬉しそうにふわりと笑う。
完全不意打ち。
頭に花びらを乗せながら、サクは呆けたように突っ立った。
「サク、優勝おめでとう。見られなかったけれど、僕は君が優勝すると信じていた。だから……贈り物。おめでとうと友情の印に」
リュカが差し出したのは腕輪だった。
「玄武が彫られた、黒水晶の腕輪。未来の武神将に」
それをつけたサクは、大人びて見えた。
「リュカ……」
サクの漆黒の瞳に、感動の薄い膜が出来る。
「あたしは首輪。同じ黒水晶が揺れるの。似合うわよ」
さらに首筋に手を回してつけて貰う、愛しい姫からの贈り物。
「姫様……」
嬉しくて感激して、胸がドキドキした。
「どうせなら三人ともお揃いの黒水晶を持とうという話になって。あたしとリュカは」
ふたりは右手を見せた。
「………」
ふたりはお揃いの指輪だった。