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吼える月
第37章 鏡呪
「どういうことだよ、ラックー!」
テオンが声を荒げる。
『緋陵は、女だけの国。男に対して蔑視があり、かなり排他的な国でもある。我が国の中核である朱雀殿を閉める時、緋陵の中枢の者だけしか扉を開くことが出来ない術が発動されるようになっていたはずだ。我の力を持つ祠官か武神将なくては、扉は開かぬ。言わば、彼女達が鍵』
「だったらさ。朱雀本体であるラックーなら鍵になれるんじゃない? ラックーが朱雀だから扉が見えるのなら」
テオンの言葉に、ユウナは頷いた。
「ええ、あたしもそう思うの。ラックーちゃんがラクダになっても、砂漠に残されていた理由は、緋陵の要である鍵だからではないかしら」
『ふ、ふむ……』
「よぉし、だったらラックー、扉を開けようよ。ラックーが、朱雀だと証明出来る機会だ。扉が開かなければ、ラックーはただの一本髪の、ハナタレラクダだよ!」
『我は朱雀なり! 今こそ我が力を見せようぞ!』
威勢よく言い放った割には、ラクダは恐る恐る片手を伸ばして、自らが扉と言い張る砂壁に触れた。
皆が固唾を呑んでそれを見守る。
すると――。
……なにも起こらなかった。
「ラックーはただの一本髪の、ハナタレラクダ決定」
『なぜ我を祀る朱雀殿が、我に反応せぬのだ!』
「なんとでも言っててよ。ということで、怪しげな扉から入る選択肢はなくなって、上に行くか下に行くかだね」
テオンが仕切り始めた時、考え込んでいたサクが言った。
「もしかして、俺が扉を開くことが出来るかもしれない」
「サク、どういうこと?」
サクは懐から赤い柄を取り出す。
「お袋は元朱雀の武神将だ。その血を引く俺が、お袋の武器を持っているんです。まあ、これが朱雀殿の入り口で、お袋のことをまだ、朱雀の武神将だとみなしてくれていたら、ですが」