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吼える月
第37章 鏡呪
「ワシっ、なにがあろうと姫様達を落とすんじゃねぇぞ!!」
ぴぇぇぇぇぇぇぇ!!
サクは、身構える。
音はサクの前で止まった――。
「「「汝、何者ぞ」」」
抑揚のない数人の女声が、寸分狂わずぴたりと重なる。
気配は正面からだというのに、その声は至る所から反響して聞こえた。
「「「ここをどこだとわかって入ろうとするのか」」」
やがてその声は、高低様々に分裂する。
「なにゆえ、先の武神将が闘具『紅奇手(べにきしゅ)』を持つ」
「なにゆえ、『紅奇手』が汝に反応する」
「なにゆえ、この門を開けようとする」
『ばへぇぇぇぇ! この声は我が国の門番、三番衆(ばんしゅ)ぞ! かなりの手練れゆえ、気をつけよ』
サクは、びりびりとした威圧を感じた。
男以上とも言われる獰猛な女性達で成り立つ緋陵の門番となれば、生半可の強さではないことくらい、理屈抜きにわかる。
……武者震いというものだろうか。
サクの芯となる部分が、奮えて呼応している。
光で見えない視界で、サクが落ち着いて神経を研ぎ澄ませていられたのは、父、ハンの修業のおかげだ。
目が見えない分、他の感覚が鋭敏になる。
……掴め。
その姿を、その息づかいを。
その輪郭、持する武器。
あらゆるすべての情報を。
「我らは汝の出入りを許してはおらぬ」
「我らは汝らを招いてはおらぬ」
「ここで引き返さねば、汝らを排除する」
かちゃりと、鋼の音が聞こえた。
……あの音と響きからして、武器は長槍。
サクは、そう見立てた。