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吼える月
第37章 鏡呪
 

「「「汝ら、命惜しくば、速攻去(い)ね!」」」

 僅かに、声が籠もっている……?

 サクは――その場で片膝を着くようにして屈みこむ。
 そして拳を、片方の掌に叩くような武官の挨拶を見せた。

「これは失礼を。私は黒陵の武神将ハン=シェンウと、緋陵の元武神将サラ=イーツェーが一人息子、サク=シェンウと申す者。この度、私の叔母上である、ヨンガ=イーツェーにお目通りを願いたく、参上つかまつりました」

 僅かに、空気が震えたのを、サクは感じ取った。

「お目通りを願いたいのは私だけではない。後ろに控えるのは、我が主である黒陵国祠官が娘、ユウナ姫。蒼陵国祠官が息子、テオン。蒼陵国武神将が息子、シバ=チンロン。女神ジョウガの浄化の笛を吹く幼女ユエと、白陵から駆けつけた我が友の熊鷹。そして――」

 ラクダを紹介しようとすると、それを遮るように女達が言う。

「面妖な。ヨンガが死んだことを知らぬのか」
「面妖な。緋陵に民がいなくなった事実を知らぬのか」
「面妖な。我らがその願いを聞き遂げるとでも思っておるのか」

 するとサクは姿勢を正さないまま、口元だけで笑みを作る。


「ヨンガは生きている」


「「「根拠はなんぞ」」」


 声がまたひとつに戻る。

「それは緋陵の民がいないこの国で、あなたがここにいるのがその証拠。なにより民に寄り添っている」

「はて。なにゆえに、〝あなた〟だと?」
「はて。我らが複数でいることに気づかないのか」
「はて。民がいないこの国でなにを?」

「まず先に、民について答えましょう。民とは、蠍のこと。即ち、ここいらの蠍こそが、緋陵の民」

 一瞬、場が静まり返る。

「蠍は突然に異常発生したのではない。外敵から隠れるために、民が姿を変えたもの」
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