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吼える月
第37章 鏡呪
サクがそう思ったのは、蠍の巣を見た時だった。
――緋陵の民が、突如消えた理由かもしれねぇ。
随分と、人間臭い集合生活をしているものだと思った時、蠍に見えるものは、緋陵の民ではないかと思ったのだ。
ただそれは、あまりに突拍子もなく。
――もしかして、消えた緋陵の民は死んだりいなくなったのではなく、ここの地下にいるんじゃねえかと。砂漠は偽装だ。
地下にひとの形でいると思い直してみたものの、やはり幻影の罠が仕掛けられていた緋陵だから、蠍説でもありえるのではないかと思えた。
だからこそ、蠍はたくさんいるのではないかと。
だが、それはあくまで推測にしかすぎない。
そのため、サクは自身の推論が正しいのかを、確かめに出たのだ。
その結果、それは一笑に付されることはなく、重い沈黙が推論は正しいのだと、サクに告げた。
『ばへぇぇぇぇぇ!!』
静寂を破ったのは、ラクダだった。
『我の民は人間ぞ! 蠍ではあらぬ!』
……少しばかり、未来の祠官組より思考が論点がずれていたが。
「ねぇ、お姉さん。蠍が民だとしたら……」
「そうよ、民を隠すために、砂漠に蠍がいるのだとしたら……」
そしてテオンとユウナは同時に叫ぶ。
「「これこそが、〝虚〟!!」」
人間が本当に蠍に変貌しているというよりは、蠍に見えるこれこそが、棺に書かれていた暗号の〝虚〟になるのではないかと。
「ふたりと同じ意見です。砂漠も蠍も〝虚〟。〝実〟は鏡の中に隠されている。四凶を門番とする棺と称した鏡の中に、緋陵の街をそのまま詰め込んだ。家族を代償にした上での朱雀の請願が、それを可能にしたんです」
光の中から、返事はない。
「ヨンガ叔母上は狂って死んだのではない。すべては朱雀の祠官を始め、蠍となる民の合意の元で、この事態を起こすために、死んだとした方が都合がよかっただけだ。ヨンガ叔母上は、いまだ朱雀の武神将として、この……蠍の巣のようなところで生活している緋陵の民を守っている」
緋陵は、すべてがまやかしなのだ。
……唯一の生物である、蠍すらも。
それは鏡の世界のように。
そう、入れ知恵をしたのは、リュカと白陵のカグラという者だ。