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吼える月
第37章 鏡呪

「国の民が忽然と消えることを怪しむ者達も出る。むしろ出ない方がおかしい。だからヨンガ叔母上の狂死を〝謎〟にすることで、罠を仕掛けた多重構造の棺に誘い込み、疑う者達を消そうとした。そのために誘い役が必要だった」

『ばへぇ! なぜ我はこの姿なのだ!』

 ラクダが騒ぐが、それを無視するように再び声が響いた。

「愚かな。ただの推測だ」
「愚かな。推測だけで、ヨンガが生きていると」
「愚かな。愚かなり」

「ではあなた達に問う。あなた方門番は、一体なにを守ってここにいる?」

「それは、答えぬ」
「それは、我らの問題なり」
「それは、汝が知る必要はない」

「では質問を変える。なぜ門を開かないようにするのが仕事の門番が、お袋の武器と俺に流れる朱雀の武神将の血に反応して、開かずの扉を開いた?」

「それは……」
「扉が開いたのは」
「我らの意思ではない……」

「随分と、人任せな門番だな」

 サクはにやりと笑い、武官の礼を作っていた手を崩した。

 その気配を察したシバが、意味することに気づいて声を上げたが、サクの動きの方が早かった。

 ガキーン!!

 硬質な音が響き、衝撃波があたりに波打つ。

「なあ、いい加減……」

 暴風が吹きすさぶ赤い光の中、サクの声がやけに大きく響いた。

「門番遊びはやめて姿を現せよ、ヨンガ叔母上」

 飛ばされないようにしている一同は、赤い光が薄れていることに気づく。

 明瞭になる視界の中、サクが対峙する者の輪郭を象っていく。

 それは、ひとりの女だった。

 真紅の両翼が拡がったような胸の飾りをつけた赤き鎧を身につけ、長い黒髪をひとつに束ねた――サク程の身長を持つ女。

 女は長槍でサクの攻撃を凌いでいたが、その槍に絡みつくように刃を曲げたサクの剣は、女の手首に突き刺さる直前で止まっていた。

 顔は赤い仮面に覆われていたが、ぴしりと亀裂が走り、粉々になる。

 現れた顔は――。


「サラ……!?」


 ユウナが思わず声を上げた。
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