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吼える月
第37章 鏡呪
『……あれは、ヨンガだ。生きておったのか!』
ラクダが興奮したように言った。
「大したものよ。光の中、正確に私の仮面を壊しにかかるとは」
サラと同じ顔を持ちながらも、サラほどの愛らしさはない。
戦いに人生を賭けた者特有の、猛々しさがあった。
その時、空気がざわめきサクが総毛立つ。
それはシバもテオンも、同じく。
門の奥側から、なにかが来る――。
だが女が片手を上げると、その気配はぴたりと止まる。
「なぜ、私……ヨンガ=イーツェーが出迎えたとわかった」
「血がやけに騒いだからだ。それは恐らく叔母上も同じかと」
すると女……ヨンガは笑い、槍を引く。
それを見たサクも剣をしまう。
「姉上から、連絡は受けていた。私の甥となるサクは、姉上を負かせた義兄上以上の逸材だと。なるほど、姉上の心を奪った男前も、しっかりと受け継いだか」
ヨンガは、腕組みをすると実に豪快に笑った。
それは好意的に馴染みやすい笑顔で、一同はようやくほっと安堵の息をついた。
「叔母上ではなく、ヨンガでよい」
「……ああ、わかった。ヨンガ」
「ところで姉上から、緋陵についてはなにも聞いていなかったのか?」
「女の国くらいしか……」
するとヨンガは、姉であるサラと同じ顔で微笑んだ。
「そうか。では教えてやろう。我が国の中枢に立ち入ろうとした男が、どうなるかを」
「え?」
それは刹那の時だった。
ズサッ!
「――サク!?」
ヨンガの手が、サクの胸を貫いたのは。