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吼える月
第38章 艶宴

「お、よく見るとこいつの顔、結構整っているな。でも男だから、まったくそそられやしねぇ。うーん、ぶっさいくな顔にして遊びたくもあるが、ヤリ終わってからだな。役立たずになったら、この壁の男共と同じ、熟成させて緋陵の作物の肥料と……」

 カルアが言葉を切ったのは、髪の隙間からぎらついたシバの目が見開かれたからだった。

「オレの……仲間達はどこだ」

 怒りを滾らせた目――。
 カルアは顔の極至近距離に、研ぎ澄まされた刃の先端を突きつけられている心地となり、冷や汗をかいた。

「言え。ユウナはサクは、テオンはユエは……動物たちはどこにいる!?」

 シバの恫喝にカルアが身体を竦めた時、鞭がしなった。
 破裂音とともにシバの頬から血が飛び散る。

「――ヤグ、あなたらしくもない。男ごときになめられるなど」

 それはヤグからだった。

「……無礼ですよ。男であるだけでも生きる存在もないのに、その髪の色と瞳の色をして、私達にそんな口をきくなど。あなたの存在は、ここでは虫けら以下。わからないのなら、わからせてあげないといけませんね」

 彼女は嗜虐的な笑みを浮かべて、鞭を地面に叩きつける。

「へ、へへ。油断しちまった。イキがいい男を屈服させるのもいいもんだ」

 カルアはが片手を動かすと、五本の指の間には鍔のない小刀――匕首(あいくち)がある。
 不穏に光る匕首の刃を愛しげに舌で舐めると、カルアはぎゃはぎゃはと言う。

「元々俺達はこっち担当なんだ。知っているか、痛みによる快楽は最高なんだ。お前にそれをやるよ。搾り取られ枯れ果て、痛みが至上の快楽になる。どうだ、光栄だろうが。〝魔に穢れし〟野郎が」

「だから?」

 シバは冷たく笑った。

 差別など、とうに慣れている。
 もがいてもがいて、それでもシバは生きてきた。

 その誇りは、誰にも穢すことはできない――シバの目はそう物語る。
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